Paul Auster

寡聞にしてオースター氏の書は初めてになりますが、調べてみると小説家としての名声だけでなく、映画の脚本家としても数々の秀作を手掛けているようです。映画界とのつながりと云えば、アンソニー・ホロヴィッツを連想しますが、小説のプロットづくりと映画の脚本構築には類似のスキルが必要なのでしょう。この作品『幻影の書:The Book of Illusions』(2002)はまさに映画(というより幻灯機的と呼んでもいいかも)の世界を実に巧妙に描いています。20世紀の初め、映画界は無声映画からトーキーに切り替えていく時代に生きた、監督・俳優としと類まれな才能を輝かせた、ヘクター・マン氏が忽然と姿を消してしまいました。やがて時代は過ぎてゆき、無声映画時代のスターは、人々の記憶の彼方に消え去ってしまいました。時は移り、1985年。飛行機事故で最愛の家族を失ない、失意の底にあったのジンマ−教授のもとに、失踪して死んでしまったと思われていたヘクター本人からのコンタクトが届きました。作中作品(映画)にある『マーティン・フロストの内なる生』も素晴らしい。一度限りの人生、何かを犠牲にして何かを守り抜く、それぞれの人々の熱い思いが伝わってくる秀作です。