Helen McCloy 8

国書刊行会から出版されている選集「世界探偵小説全集」に大好きなマクロイ女史の作品が挙げられているので読んでみました。『割れたひずめ:Mr. SPLITFOOT』(1968)です。雪深い山中で道に迷ったベイジル・ウィリング夫妻がたまたま一夜を過ごした屋敷でおきた、不可解な殺人事件と、屋敷にまつわる怪しげな言い伝えを描いております。私が女史の作品を気に入っているのは、トリックなどよりも「人間心理」を掘り下げていく所なのです。ポルターガイストなどの現象は、現代社会でも面白おかしく取り上げられたりしますが、興味深いのはそこで働く人間心理の機微です。そこで登場するのがB.W.すなわち精神分析医ベイジル・ウィリング博士の、見事なまでの心理分析です。心理を押さえれば人間行動の多くを説明できるという訳です。そして、この物語の根っこは「盗み聞き」「立ち聞き」の怖さです。私たち人間社会は「会話」で成立しておりますが、それは当事者同士ならば良いのですが、密かに第三者に聞かれてしまうと大変な事態になってしまう場合もままあるのだという事です。場合によっては「殺人」も起こしかねない要因にもなるのです。ネットやメディアでの炎上騒ぎも、余計な失言から発生することが多いです。いつの時代でも、発言には十二分な配慮が必要だと云うことでしょう。作品のストーリーからは関係ないかもしれませんが、こうした「気づき」を与えてくれるのが、番外的なミステリの面白さだと感じています。