Robert Goddard

古書店でなにげに入手したものの、手つかずだったゴダードの『リオノーラの肖像』(1988)を正月休みでようやく読んでみました。文庫本で600ページを超える厚さに躊躇していたのが理由ですが、読み始めたら止めることができず、足掛け2日で読了してしまいました。それにしても感じたのが邦訳タイトルの不思議さです。原書では『IN PALE BATTAILIONS:青ざめた戦闘で』となっています。原書の表紙絵も幾パターンかあるのですが、多くは戦没者の慰霊塔や墓地を描いており、邦訳版とは受けるイメージが全然異なります。軸足を戦争の悲惨さに置くのか、時代に翻弄された女性の生き様に置くのかで、タイトルは異なるのだと思いますが、ゴダード自身は間違いなく前者を訴えたかったのでしょう。戦後の日本ではミステリとはいえ、戦記ものは色眼鏡で捉えられてしまうので、哀れな女性の人生に昇華させて邦訳タイトルをつけたのでしょう。イギリスはじめ、侵略される側にとっては、戦争自体は意に反しても、戦うことは不可避なものであり、国を守るために失われた多くの命に対しては、尊ぶ心は社会の隅々にまで浸透しているはずです。日本では、おそらく戦争マニアしか知らない第一次世界大戦「ソンムの戦い」が大きな鍵となっています。1916年の北フランス・ソンム河畔、ドイツと英仏の間で起きた激しい戦いでイギリス軍兵士42万人、フランス軍兵士20万人、ドイツ軍兵士50万人の命が、わずか三ヶ月で失われました。結果的にイギリスを含めた連合国はかろうじて勝利を収めましたが、社会のなかでは修復しようもない傷跡を残したのです。一人のイギリス人女性リオノーラと、その関係者の生き様にスポットを当てながら、戦争が生む悲惨な仕打ちを描いていきます。様々な切り口をもった重層的な構成になっていて、新年早々に素晴らしい作品に出会えたことを感謝するばかりです。今年のマイベストの一つになるでしょう。