Gaston Leroux

英米のミステリは質・量とも他を圧倒していますが、他の国にも素晴らしいミステリがあります。そのひとつ、フランスの探偵推理小説の代表作でもある『黄色い部屋の秘密(早川書房)』を、読んでみました。著者のルルーはあらゆるジャンルのものを執筆しており、かの有名なミュージカル『オペラ座の怪人』も同氏の作品になります。1907年の作品とは思えぬ鮮度で、ぐいぐい読者に迫ってくるのは、おそらく幾度も推敲を重ねた新訳の見事さにもあるのでしょう。500ページ近くあるにも拘らず、あっという間に読み終えてしまいました。ざっと読むと、若き新聞記者ルールタビーユの知力と奔放さが、主な筋書きになるのでしょうが、この小説のなかで、密かに幾重にも張り巡らせた論理の流れ(輪)を考えると、表面的な喧噪の裏側にある、もの凄く精緻に築かれた文脈が存在しているのが分かります。この作者の頭のなかは、とんでもなく優れたコンピュータに匹敵しています。フランスはカトリックの国ですので、婚姻の持つ意味はとても大きく、気に入らないからと当事者間の意志だけで簡単に別れるわけには行きません。米国や日本のような、いわば形而的な扱い(≒行政的な手続き)とは一線を画しているのでしょう。その分、禁断の愛情も激しくなるのかも知れません。そこで新たな犯罪の火種や動機が生まれてくるのでしょう。