およそ一年ぶりにティ女史の本を手にしました。『時の娘』や『歌う砂』などでおなじみのグラント警部の初登場作品『列のなかの男:The Man in the Queue』(1929)です。当時は女性作家に対する偏見があったようで(とりわけ英国で)、ティ女史も当初は男性を想定した「ゴードン・ダヴィオット」名義で出版されたようです。約百年後の今でもなおセクハラや、女性の社会進出に対してのガラスの天井が、世界中そこかしこで存在していることを思えば、作家のみならず当時のタレントを有した女性たちの苦難の程ははかり知れません。そのような中でも、現代に語り継がれる多くの名著を残してくれた女流作家群の存在は、表面的なリスペクト以上のものがあります。自分がやたらに女流作家ミステリを好んで読む理由の一つに、こうした選りすぐりの才能から練りだされた美しい文章に触れてみたいからに他なりません。とはいえ、ティの文章は難しくなく分かりやすく、そして内面の機微をとても上手に描いているので、読んでいて気持ちが良いのです。本作のそれは、最初期ということもあり多少の粗っぽさは隠せませんが、それでも溢れる才能を十分に感じ取れる、素敵な作品だと思いました。









