論創海外ミステリは選書だけあって、なかなか秀作ぞろいです。アメリカのクリスティなどとも評されている、ラインハート女史の『ジェニー・ブライス事件:THE CASE OF JENNIIE BRICE』(1913)はなかなか興味深い作品でした。舞台は1907年の米国東部のピッツバーク。ここでは春になると雪解け水による洪水が発生する一帯です。そしてその年もまた洪水が発生し、主人公が営む下宿屋でも床上浸水して大騒ぎしているなかで、下宿人の一人、ラドリー夫人ジェニー・プライスが忽然と消えてしまいました。日頃から夫婦間の仲が良くなかったことや、残された証拠や関係者の証言などから、警察は夫のラドリー氏を殺人容疑で逮捕拘留したのです。ところが、肝心の被害者は見つかりません。やがて川の中から一人の水死体が見つかりましたが、首から上がありません。確実にラドリー夫人であるとの確証もないまま裁判は続き、結審します。被告による殺人は行われたのかどうかは、被害者が特定できない限り難しいのです。当時はDNA鑑定などもなく、状況証拠や動機などから極刑が言い渡されることもあったようです。大正年間の英米小説ですが、完訳されたのは、なんと92年後の本書(2005年)です。死体が無いのに殺人事件として取り扱うという、斬新なプロットは今日私たちが読んでも十分にミステリとして成立しています。こうした優れた作品を取り上げてくれた選書には感謝せずにはいられません。









