リタイアしてから図書館のハードカバー本に回帰しつつありますが、旅にはやはり文庫本がフィットします。諏訪行脚に携えていったのは、フィルポッツ女史の短編集『孔雀屋敷:PEACOCK HOUSE ANDOTHER STORIES』(1926)でした。6つの短編からなるこの本は、女史の書いた代表的な短編集とも言えます。例によって、理屈では通らないサムシングをちりばめた感じのミステリなので、人によってはオカルトミステリとして捉えてしまうかもしれませんが、個人的には好みの内容でした。タイトル題にもなっている『孔雀屋敷』は、既視感というのか、今でいうところの、ある種のパラレルワールド的なプロットが骨子になっておりますが、フィルポッツ女史の筆力によって、単なる怪奇小説ではなく、とても感動的な作品に仕上がっております。現代の社会では殺人者=悪人、的な前提に立って事象を仕上げてしまいがちなのですが、現実には様々な要素が錯綜しており、女史が紡ぐ物語のなかでは、犯人にある種の共感を感じてしまう読み手も多いはずです。あと引き込まれた短編が『三人の死体』です。人間という、言うなれば社会的動物たちが陥りがちな性向を、皮肉っぽく、それでいて哀しみに溢れたストーリーで展開させています。事実は表面に記された事実でしかなく、それ以上のものではありません。真実を掴むうえで肝心なことは、列挙されている事実の背後に隠されている「心」をどう読み解かすかという話なのでしょう。









