基本的にミステリーのみならず英米小説を好んで読んでいますが、たまに他の国のミステリーを読むことがあります。ですが、気に入った作品に出逢うことは稀です。今回ご紹介の、フリードリッヒ・デュレンマットの短編集『失脚・巫女の死:Die Panne / Das Streben der Pythia』(1986)増本浩子訳の光文社古典新訳文庫には、四遍からなる短編集です。デュレンマット氏はスイスの作家ですが、ドイツ語圏のベルンで活動していたので、当然ドイツ語で書かれている原典のはずです。ところが訳者の増本さんに言わせると、スイスのドイツ語圏の標準語は特有の表現をし、標準ドイツ語ではないらしい。さらに言えば、話し言葉であるベルン方言はかなり厄介で、デュレンマット氏自身も学校で標準ドイツ語に触れたときに、なにかの外国語だと感じたそうです。こうした構文的要素も織り込むと、さぞかし翻訳も大変だったように思えます。実際に、短編にも拘らず読み進めるのに難儀しました。
くどくて、これがスイス的な思考方法なのかも知れません。そういえば、脱線しますが何十年も前、米国に語学研修にいった際に、スイス人と口論になったことを思い出しました。彼にとっては口論ではなかったのでしょうが、理路整然とジェンダーフリーの正当性を偉そうに話していることに対し、わたしが人間以外の生物種における性別普遍性を論調にして噛み付いたという訳です。今にしてみれば、若かった故のしでかしですが、懐かしい思い出です。(ちなみに年齢とともに性転換する生物や、交尾するまで互いの性を決めていない生物もいることを当時は知りませんでした)それからというもの、スイス人とは「自らを完璧と信じているような人々」であると認識していましたが、デュレンマットのミステリーを読んでいると、その完璧そうな表層のすぐ下にある不条理をあざ笑っているようにも思えます。自分としてはタイトルに示されていない「トンネル:Der Tunnel」「故障:Der Sturz」が不気味で面白かったです。でも、自分はやはり英国のミステリーやゴシック小説が好きですね。









