ドイツ人作家というと堅真面目な小説を書いてばかりと思いきや、ユーモア小説もなかにあります。ケストナー氏の『消え失せた密画:Die Verschwundene Miniatur』(1935)がその一つ。小学生に人気の一冊ということで紹介された本です。1935年というと第一次大戦の敗戦から、戦勝国から巨額の賠償金を課されて、ドイツという国家が疲弊にもがきながらファシズムに舵を切った時代の作品になります。当然の帰結として暗い世相だったにもかかわらず、このような軽文学が生まれていることは、ある意味で必然的なことでもあったのでしょう。人々の心が折れないためにも「笑い」がとても必要な時代だったのだと思います。たしかに小説の中にはナチスの匂いはまるで感じさせませんが、主人公になっている肉屋のキュルツ氏のように、善良そのものの人々を描いて、正しい社会には何が大切なのかを訴えることで、おそらくは彼なりの作家精神を発揮したのだろうと感じられます。









