Dorothy Leigh Sayers 11

女史の長編『五匹の赤い鰊:THE FIVE RED HERRINGS』(1931)には副題として(SUSPICIOUS CHARACTERS)とありますが、まさにこの副題通りに、あらゆる関係者が被疑者であり、それぞれが「事情」を抱えているようで、全てをあからさまに白状しません。絵描きという芸術家はなかなか曲者です。警察もウィムジィも、次から次へと振り回されます。483ページのほとんどがそれで占められていて、腹をたてる読み手もいるかも知れません。
ちなみに「RED HERRING」というのは「偽の手がかり」という意味のようで、なんで?といきなり個人的に脱線。どうやら燻製ニシンは赤茶色に変色しており、匂いもかなり強烈だそうです。その特性を生かして猟犬に、この燻製ニシンを進行路におとりとして使って、それでも猟犬を正しい匂いを辿るよう訓練することから名づけられたようです。この物語では、殺人の被疑者は6名、それぞれが勝手に自分のアリバイ〔それも結構あやふやな〕を取り上げるのです。つまり真犯人を除いた5名の言い分は「RED HERRING」ということになります。ウィムジィが結局、事件をそのままなぞることで、それまでの疑問点やあらたな証拠が明らかにされるのです。
時刻表や路線図の類が多いので、セイヤーズ女史の作品の中ではかなり読みづらい作品でした。やっぱりハリエットやバンターがたくさん登場してくる作品の方が好みです。