Rリーバス&Sホフマン

スペインのサスペンス・ミステリ物は初めてでしたが、今回読んだ『偽りの書簡:Don de Lenguas』(2013)はなかなか面白かったです。舞台は1952年のバルセロナ。ほとんどすべて忘却の彼方に行っておりますが、第一次世界大戦後に続いた混乱のなかで、スペインは内戦を経て、第二次世界大戦前のファシズム台頭の流れの中で、スペインもフランコ総統による独裁政権に変わっていきました。独伊の劣勢を察してすぐに中立体制に移行したフランコ体制は、彼が没する1972年まで続いたわけで、この物語もその頃のバルセロナをまがまがしく描写しています。
こうした権威主義体制下のなかで起きた上流階級未亡人の殺人事件。新人記者のアナが、はとこの文献学者とタッグを組んで事件解決に取り組みますが、思想や言論を弾圧していた当時の空気が物語から湧き上がってきます。人間関係というのは、どうしても抑えつけたい、抑えられたくない、という個としての基本形があって、それを内在させながら組織や社会が築かれています。どこかでバランスが崩れると、そこで一気に内紛が勃発するということになります。
個人的には有り難くない状況ですが、こうした緊張下ではミステリが輝きを増すのでしょう。