アビール・ムカジー

函館で異国の風を感じたためかもしれません。6月最後のご紹介はインドを舞台とした『マハラジャの葬列』です。イギリスとインドとは長い歴史を共有しています。英国ミステリの中でもインド駐在からの帰国者が登場人物になったりしますが、巻末までインドの地で展開していく小説は自分的には初めてになります。すぐに本筋から脱線する自分としては、ストーリーよりも習俗などがとても気になりました。日本では学校でインド人=ヒンドゥー教徒とすり込まれていて、それ以上は所謂思考停止をしております。ところが、実際には全土で14億人もいるのですから、信仰も人種も一言で片付けられないような、きわめて多様な世界になっているようです。この本のなかでも地域政権のような藩王国、地域信仰、駐留イギリス人、インド人と白人との混血、インド人の中におけるカースト、これら諸々のカオスのなかで事件は起きます。西洋人の常識では測れない世界の中で起きる殺人事件、真実は一つかもしれませんが、何が正義かはTPOで変わってきます。インドの蒸せ返すような空気を感じながら、ロシア人墓地のそばの石段に腰を落ち着けながら、旅の一冊を読み終えました。