SAKURA考

ニュースでは弘前公園のソメイヨシノの話題が出ていましたが、桜前線はすでに首都圏からは遠いところに離れていってしまいました。今更あらためて桜の話題を紹介するのもどうかと思いますが、猫も杓子も花見に浮かれていた時期をすぎてから、のんびりと桜のエッセイを取り上げたいと思います。
はるか昔から自分自身は遅咲きの八重桜が好きなので、タイミング的にはそう悪くはないでしょう。拙宅のカンザンも数輪を残すだけになってしまいましたが、例年ちょうどこの時期、ひどかった花粉症から解放されるので、季節的には自分にとっての春はこれから本番です。
ところで、一般的にはサクラ=春という図式がすべての日本人に受け付けられていますが、はるか昔、桜のルーツを辿ってみると、どうやらネパールあたりに起源があるようです。コンラッドの小説などにも出ているのですが、厳しい山岳地帯を抜けたあたり、標高でいうとカトマンズもある千メートル超の高原では、気温はむしろ安定していて、ヒマラヤザクラのように秋に咲くような桜も珍しくなかったようです。ながい年月を経て、分布を広げてやってきた日本では、冬の寒さと乾燥を毎年繰り返している環境のため、冬をやりすごして春先に花をつけるライフサイクル・パターンを獲得してしまったようです。春だけでなく秋にも花をつける二度咲きのジュウガツザクラやコブクザクラは、遠い昔のヒマラヤザクラのDNAに刺激されて、秋にも花をつけているのでしょう。
サクラは花だけではありません。大騒ぎしたソメイヨシノ君も、今の時期は柔らかい緑の葉を展開していて、それはそれでとても素敵です。来月にはもうサクランボが目立つようになります。どうか特定の時期だけではなく、いろんな視点でサクラの生態を楽しんでもらえればと思います。