アガサ・クリスティ28

マイブームではありませんが、短編づいていて『マン島の黄金:Manx Gold』を読んでみました。クリスティの拾遺集12話+2話〔文庫本で追加〕が載っております。いずれも素敵な作品ばかりで、とてもコスパが良い?短編集だと感じました。世界中の多くの読者は、クリスティは謎解きミステリを!と期待しているので、結果的にその手の作品が多く発表されています。興行的にはそうなのでしょうが、この短編集を読んでみると、女史が本当に描きたかった小説はそれとは少し違っていたのではないか?と思いながら読み進めました。自分が海外ミステリ沼に嵌り込んだ理由の一つは、女性の心理というのは如何なるものか?と気になったためですが、大英帝国という、ある意味日本と似通った、保守感や社会構造のなかで生きていく女性たちの、微妙な立場と複雑な心境を垣間見るには、女史の作品はとても勉強になります。
今回の短編集のなかでも自分の心に刺さったのは『孤独な神さま:The Lonely God 』と『愛犬の死:Next to a Dog』の二作です。前者は1926年、後者は1929年。世間を騒がせたクリスティ失踪事件前後のものだと思われます。女史自身の心も大きく揺れていた時代の作品なので、人間の振る舞いに対しては相当に懐疑的だった女史でも、目に見えない”Something”については信じていたのかも、あるいは信じようとしていたのかも知れません。それが、時として人の生きざまを導くことについても。